文人をテーマにした俳句(厳選三句)

sanku

物や思ふと人の問ふまで夏痩せぬ  漱石

この句は百人一首の平兼盛の「しのぶれど色にいでにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで」の歌の七七をそのまま引用して、相手がずいぶん痩せられましたが、如何したのですかと問われ、この恋歌を思い、夏痩せと恋故の身の痩せと重ねて、相手の
からかい心を面白がっている。このような和歌という正当な文芸を対照とした批判や抵抗や揶揄などによる滑稽の尊重は、明治時代に顕著に現れた。子規も「忍ぶれど猫に出でけり我恋は」などを作っている。この句は夏目漱石の明治二九年の句。

水に入るごとくに蚊帳をくぐりけり  達治

最近は下水道の完備により、蚊が都会では少なくなり、自ずと蚊帳も見なくなったが子供の頃は、どこのうちにもあった。蚊帳に入るにもコツがあり、蚊帳の裾を波のように揺すって蚊が一緒に入らないようにして、ぱっと入るのだと母に教えられた。達治のお母さんは、水に入るように足から静かに潜り込むのだと教えたのだろう。
ともあれ、蚊帳の裸電球の下では、まるで海底にいるような気分になる、四角い空間が大好きだった。この句は大阪生まれの詩人、三好達治の句より引いた。

あんずあまそうなひとはねむそうな  犀星

和名のアンズは中国古名の杏子(アンジ)から転じて生まれたと言われるているように、原産地は中国。日本には奈良時代以前に、薬木として他の中国文化と共に渡来した。その果実は七月頃、黄熟する。味は淡甘で、かすかに酸味と渋みがある。
犀星の生地は、杏子が盛んに栽培されていた石川県だったことを考えあわせれば、陽光を浴びながら杏子を摘み取る人を見て、眠そうと思ったのだろう。全文をひらがな書きしたことで、いかにも眠そうで、杏子の甘みが増して美味しそうに感じる。
詩人室生犀星の句より引いた。

 

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