海をテーマにした俳句(厳選三句)

sanku

海見えず蟹ののぼれる屋根が見ゆ 峠

峠は、市立尼崎高校の教師だった。したがって、「何故にこの教室に来れば咳く」「教室の窓は敏感東風来たる」など教師俳句を多く生み出している。また、一変して掲句のように、海を詠んだ句が見られる。峠にとって、海は単に地理的に近いという物理的要因より、生臭い教師生活からの開放の場であったのかもしれない。しかしながら、「海は見えず」と書き出している。屋根へかつかつと這い登る蟹は、峠自身の意識の生み出した幻影。はるか向こうに聞こえる潮騒は、渇望する心の叫びか?この句は句集「避暑散歩」から引いた、森田峠の句。

かもめ増えカットグラスに海あふれる 幸太郎

かもめは、餌を得ることに貪欲だ。とりわけ鰯が大好きで、ギャア、ギャア声を上げながら鰯に挑みかかる姿は、ヒチコックの「鳥」を思い出して怖くなるぐらいだ。幸太郎の捉えたかもめは、リチャード・バック著の「かもめのジョナサン」であろうか。ジョナサンは、飛ぶことに拘り続けて、やがてはその羽根は、金色に輝く。その風景と掲句を重ね合わせると、かもめの青空をバックに群れ飛ぶ、眩しいぐらいの白色は、カットグラスの輝きだといえる。そのグラスに並々と注がれた水は、海そのものだ。極めて感覚的な幸太郎の海が眼前に広がって来る。この句は、6月30日に刊行された句集「夕景」(富士見書房)から引いた、室生幸太郎の句。

海月光る アールヌーボーの部屋みたい めぐ

アールヌーボーは1890年頃、ベルギーの建築家アンリ・バン・デ・ベルデらが中心になって起した新芸術様式。彼らは歴史的な様式を拒否し、自然主義にもとづく新様式を目指した。当時の新材料(鉄、セメント、ガラス)を採用し、その形態は植物の形から得た、曲線や曲面を適用して、幻想的な効果を上げていた。めぐは、怪しげな光を放ちながら泳ぐ海月の姿を、アールヌーボーの部屋と大胆に比喩した。曲面に囲まれたその部屋は、自分自身の想像の小部屋とも言える。ガレもまたアールヌーボーを代表する人物だった。今も人気のある、きのこ型ランプは光を灯せば海月にも見えてくる。この句は「青玄合同句集」から引いた勝浦めぐの句。

 

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