赤ん坊をテーマにした俳句(厳選三句)

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赤ん坊に太陽が来る髭が来る 三樹雄

この間、大江健三郎の『二百年の子供』(中央公論社)、という本を読んだ。「いま」という事をテーマに健三郎、初めての珍しいファンタジー。帯文の中で、「私たちは(子供から老人まで)いまという時を生きています。私たちが経験できるのは、それでいて、過去の深さと未来からの光にひきつけられます。人間だけが、そのようないまを生きるのです。そして、そのことを意識しないでも、誰より敏感に知っているのは子供です。(後略)」と書いている。掲句も、赤ん坊の輝かしい未来を、太陽を生命を育むものの象徴として、また髭を父親の象徴として、重ね合わせている。健三郎の言う「いま」を描き出している。この句は句集「舎木」より引いた、斉藤三樹雄の句。

子の冬や吸切啜の喉波打てる 雅子

最近はミルクなどの人工栄養児が多いが、母乳で育てることが見直されている。母乳は、言うまでもなく消化、吸収がよく、栄養にも優れている。何より、母乳に含まれる免疫体が、生後6ヶ月ごろまで、ある種の伝染病の予防に役立つことが知られている。初乳(出産後4~5日)の母乳は、たんぱく質、脂肪、無機質に富む、高カロリー。掲句は、赤ん坊が母乳を吸う様子を、その喉に着目して、クローズアップさせ描いている。その喉の波立ちは、生命の輝きといえる。この句は、「現代俳句100人20句」から引いた、山西雅子の句。

小春日の鐘撞堂から赤ん坊 明美

明美の第一句集「月への道」(富士見書房)が、昨年の十二月二十日に刊行された。帯文に、「明美の俳句は読者の心身をきれいにする」(坪内稔典)と書かれているように、明美の俳句には、旨く作ろうと言う技巧が見られない。日常の風景を肩に力を入れず、平易な言葉で言い止めている。掲句も、鐘撞堂から赤ん坊が出て来た事を、なんの修飾もなく、書いている。だが、読者に不思議な情景を、思い描かせる。たとえば、鐘の音から赤ん坊が生み出されてような、幻想とも思える。他に、「桐の花サドルを一寸高くして」「夏木立馬は羽音に耳をよせ」「青空へ押し出されてる籐の椅子」なども、巧まない良さが発揮された句が、多数収められている。この句は、船団会員、中林明美の句。

 

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