『たとへば君―四十年の恋歌』河野裕子・永田和宏著 文藝春秋刊
社会情勢が大きく変化してから夫婦関係が、希薄になりつつある。
その傾向は、3組に1組が離婚するというデータが示している。
さて河野裕子・永田和宏の夫婦関係は、短歌という表現を通じて強力に結びついていることが解る。
第1章の二人の出会い・結婚。
そして妻の河野裕子の乳癌の宣告・再発・闘病生活、終章の絶筆の死までの40年間余の共有した二人の時間を相聞歌という形で、380首収めている。
出会いの頃
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子
きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり 永田和宏
発病の時
あの時の壊れたわたしを抱きしめてあなたは泣いた泣くより無くて 河野裕子
「私が死んだらあなたは風呂で溺死する」そうだろうきっと酒に溺れて 永田和宏
最後の時間
この家に君との時間はどのくらゐ残つてゐるか梁よ答へよ 河野裕子
あなたにもわれにも時間は等分に残つてゐると疑はざりき 永田和宏
そして、河野裕子の死後、
わたくしは死んではいけないわたくしが死ぬときあなたがほんたうに死ぬ 永田和宏
「死者は、生者の記憶のなかにしか生きられない。
だからもっとも河野裕子を知っているものとして、長く生きたいと思う。
それが彼女を生かしておく唯一の方法なのだと思う」と、あとがきに書き記している。
相聞歌と言えば、甘くなりがちだが、章ごとに挿入されているエッセイと合わせて読むと二人の人間としての赤裸々な葛藤と通じて、立ち上がってくる人間像は、胸に迫り来るものがある。
ぜひ、読んで欲しい一書だ。
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