肉体をテーマにした俳句(厳選三句)

sanku

枯葦を瞳につめこんでたちもどる 赤黄男

赤黄男は、季節としては冬がとりわけ好きだったようで、寒、枯れなどの厳しさをモチーフにした俳句を多く残している。同じ時期に、「枯原の風が電車になつてくる」「冬の日は墜ち一ぽんの葦のこる」などを書いている。掲句は枯れて水辺に突き刺さったように立つ葦を見て、その厳しさや痛々しさが自らの瞳孔に飛び込んで来たのであろう。赤黄男は、白と黒を対比させたり、際立たせたりしてイメージを膨らませることを試みていたので、この作品も瞳の中で枯葦が真っ白になって、昇華されているのかもしれない。この句は句集「天の狼」から引いた、富澤赤黄男の句。

耳朶は岬のかたち冬晴れて 耕三郎

耳と言う言葉は、かなり古くからあった。「魏志倭人伝」では投馬国の官を弥弥、副を弥弥那利と記している。また「肥前国風土記」では、小近島の支配者の名が大耳。大近島の支配者の名が垂耳と記されている。さらに、聖徳太子の別名もトヨトミミであった。その耳は、大きな耳、小さい耳。如来のように垂れた耳など千差万別である。顔から突出いるので、それ自体でも半島めいているが作者は、耳朶に着目して岬の形だと比喩した。冬晴れの岬を想像すると、耳朶が美しくクローズアップしてくる。この句は、句集「水瓶座」から引いた、和田耕三郎の句。

歩きながらの目玉体操 ピラカンサ 宏子

目玉体操?どんな体操だと調べてみたら、カッパブックスから「目玉体操」という本が出ている。これは、いろんな種類の迷路が載っているものだった。次に速読つまり文章を早く読む訓練の講座に目玉体操があった。更に調べたら東洋医学研究所がやっている目玉体操を探し当てた。この目玉体操の解説に「生命力を高めます。美人になるんだ、パワーをつけるんだというイメージを描いてやってください」と書かれてあった。他にも大口開き体操もあった。作者も当然、ピラカンサの道を、頬を染めながら東洋医学に乗っ取って、目玉をくるくる動かしているのだろう。極めて健康的で明るい作品。この句は句集「指栞」から引いた青玄同人、吉塚宏子の句。

 

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