はるかまで旅してゐたり昼寝覚 澄雄
夏はその暑さの故、身体が疲れてだるくなり、ごろんと昼寝して体力の回復に努める。しかし、澄雄は現実とはかけ離れた世界を詩的に読み込んでいる。はるかまで旅していたと書いているが、たぶん芭蕉に傾倒して澄雄のことだから、時空を越えて奥の細道を一緒に旅していたのだろう。澄雄は時間に、こだわりを持ち、こう述べている。「現代俳句は、現実の風景や、そのときの時間、哀しみだけに密着している。それが俳句の呼吸を浅くしているのではなかろうか。その点、僕は、風景を描きながら風景を包む空間の広さ、あるいは時間の過去も未来もその一句の中にとどまっている、というような呼吸の深さを、現代俳句に復活してみたいと願っている。
今日からはからくり時計も 夏時間 中ヤスヱ
からくり時計といえば、貴族が愛用した卓上型と屋外に設置された大掛かりなものとがある。屋外型のものでは、倉敷市のアンデルセン広場のものは、童話の登場人物が音楽を演奏する。、松山市道後温泉のものは、ぼっちゃんの登場人物が時刻になると出てくるなどは、とりわけ秀逸で楽しい。この句のからくり時計は、サマータイムに海外旅行で出会った広場のもののようだ。「今日」「からくり」「夏時間」という言葉の重層させて、明るい風景が描き出している。この句は青玄無鑑査同人、中ヤスヱの「青玄合同句集11」より引いた。氏は1985年青玄新人賞。1988年青玄賞を受賞している。
眠りなさい 夜光時計とネオンテトラ 和子
一時、熱帯魚をたくさん飼っていたことがある。エンジェルフィッシュやネオンテトラ、グッピィは、特に人気が高かった。ネオンテトラは混泳も可能だし、比較的飼育しやすく、メタリックに輝く、その姿は幻想的である。眠りなさいという、口語表現の語りかけが、規則正しく時を刻む時計とネオンテトラに向けられたことで、一層詩的に昇華させている。ネオンテトラの寿命がたった一年」であることを思うと、作者の想いが深く投影されている。この句は「青玄合同句集11」の諏佐和子の句より引いた。
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