あさめし・ひるめし・ばんめし ちくま文庫
近頃は、グルメブームだ。テレビ番組でも、連日のようにタレントを使って様々な料理が紹介される。更には、権威付けのためのミシュランの星がいくつのレストランだとか、日本料理店だとかいって紹介される。と、ありがたがって予約が殺到するという現象はどうなんだろうと素朴に思っていたら、この本に出会った。文筆家32名が、自分の好きな(?)、思い入れの一品をエッセイに書いている。味覚とはそもそも何であろう。個人個人の舌の感覚であり、星の数や値段では推し量れないもののはずだ。
草野心平の場合
友人の松形三郎が出水の干し海老を使って作る雑炊は天下一品であると聞かされ、その干し海老を貰ってから二年余りも自宅の鴨居にぶら下げて、さぞ味も落ちてしまったであろうと、眺めていた。ある日偶然、別の友人から干し海老あさが送られてきて、その雑炊が食べたくなり、作って食べたところ、絶品だったとのこと。思い出と味がマッチしたのであろう。
永井龍男の場合
龍男は、餅好きのようだ。だが、餅にもこだわりがあるようだ。搗き立ての餅は苦手なようで、ちょっと乾燥した餅を焼いて食べるのが、好きだと断言する。豆大福などはやわらかいのが良いと思うのだが、食べ残している少し乾燥した物がいいようだ。更に、その両面をこんがり焼いてあんこがはみ出したものが、他に類の無い美味さだと書いている。また、我々には耳慣れない、耳餅(のし餅の端)すなわちパンの耳のようなものも好きなようだ。まさに、こだわりの味なのであろう。
瀬戸内晴美(寂聴)の場合
寂聴は、頭の血管に異常がある理由で、玄米菜食に切り替えたらしい。人は、せいぜい1年も続けばいいほうだと、言われたそうだ。友人から送られた圧力釜を使い、玄米に小豆、はと麦を加えて炊き上げたものに、黒ごまの塩をかけて食べるそうだ。更に、自宅の裏庭から採れた野菜。自家製の味噌漬けを添えると、実に美味しいそうだ。お陰で5歳ぐらいは若返ったと述懐している。