夜明けには苅田の足型動きだせ 鬼房
稲作はおよそ2000年前の弥生時代から行われていたと言われていたが、最近の発掘調査で縄文後期まで、遡るといわれている。わが国に野生の稲がなく、中国大陸(華州)から九州へ。または、朝鮮半島経由で南方から沖縄へという説がある。また当初は、じかまきであったと考えられている。田植えの頃の泥田に残された足型が、稲を刈り取れば、くっきりと石膏型のように見られる。稲作のルーツを思えば、まるで縄文人の足跡にも思える。鬼房も、「動き出せ」と命令調に終わらせているのは、そうした風景を思い描いたに違いない。この句は、東北の風土に根ざした句を作る、佐藤鬼房の句。
麦刈ってぐらりと村の夜空なる 典子
麦の熟れるのは、二百十日前後。その頃の一面に広がる黄茶色の麦畑は、本当に美しく大好きだ。まるで、あたりの風景が麦秋そのものになる。それは、ミレーの晩鐘の絵そのものと、思える。麦が刈り取られると、空が壊れて行く。典子はその壊れる風景と感情を「ぐらり」と表現した。すっかり刈り取られた後の夜空は、その前日の色とは違って、さらに深い漆黒の闇になったであろう。それもまた、美しい。この句は、句集「木の言葉から」(富士見書房)から引いた、松永典子の句。「素潜りに似て青梅雨の森をゆく」「行く春のお好み焼きを二度たたく」等、秀句が多い。
ちちろの夜 あなたに休止符あげたいわ 侑子
蟋蟀は種類が多い。普通こおろぎと言っているのは、つづれさせ蟋蟀で姫蟋蟀、大和蟋蟀、東京蟋蟀ともいう。蟋蟀を「ちちろ虫」と呼ぶのは、その鳴き声に由来する。『夫木抄』巻十四、秋五「虫」の題下に、「旅宿巷、さらぬだに草の枕は露けきにあらそひて鳴くよはのちちろと」にもそれが、窺がえる。虫の鳴き声は、人の心を癒してくれる。侑子はちちろを擬人化して、そんなに一晩中鳴くのは疲れるだろうから、ちょっとお休みなさいと、話しかけているのだろうか?それとも、働きづめの夫に対するいたわりの言葉だろうか?この句は「青玄合同句集11」から引いた、西村侑子の句。
この句は「青玄合同句集11」から引いた、引田美津子の句。
コメント