鶴渡る真白きめしを食ひをれば 桃子
最近はお米もブランド米と称して、産地や銘柄にこだわる様になり、贅沢になった。私たちの子どもの頃は、とにかく食べられれば良いという時代だったので、自家米か地元米だった。食事の時も、話などしないで黙って食べる事と、米はお百姓さんが八十八回の手間をかけて作るものだから、よく噛んで残さず食べるようにと、厳しく母に躾けられたのを、思い出す。掲句を読んでいたら、そんな風景が思い起こされた。「真白き」の言葉から、炊き立てのご飯をほくほく食べる時の幸せが、鶴を呼び寄せそうな気分になることは、納得できる。この句は「女流俳句集成」(立風書房)から引いた、辻桃子の句。
カナリヤ色に卵焼く日の全き主婦 陽子
昔、「巨人、大鵬、卵焼き」と言う言葉が、1960年代に流行った。子どもの好きなものを並べたものだが、卵焼きは子どもに限らず大人だって好きだ。弁当のおかずの定番でもある。卵焼きは簡単そうだが、それぞれの家にレシピがあるようだ。砂糖味の甘めのもの、醤油味の辛目のもの等、試しにインターネットで調べてみたら、沢山の卵焼きのレシピが載っていた。味もさることながら、焼き上がりの色合いが問題。カナリヤ色に焼き上がるとは、「どう、美味しそうでしょう」と、誇らしげに問いかけてくる、作者の姿が見えてくる。この句は、句集「花象」から引いた、豊口陽子の句。
マヨネーズ逆立ち トルコに地震報 ゆきこ
あるクイズ番組でマヨネーズの語源が、論争になった。18世紀、地中海のミノルカ島(スペイン)のオリーブオイル、卵、レモン汁使ってソースがフランスで紹介され、港町マオンの名に因んで「マオネーズ」と呼ばれたのが、訛ってマヨネーズになったようだ。そのマヨネーズは、手軽に手に入るようになったが、何故か底に残ったいる僅かな量がもったいなくて、容器を逆さ立てする。そんな些細な仕草を、テレビから流れるテロップの地震報と取り合わせて、旨く俳句に仕立てている。この句は青玄大阪句会で発表された、荒木ゆきこの句。
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