いきいきと三月生る雲の奥 龍太
龍太は、この句の自句自解文で「棚田の洫(井出)の芹が青み、まだ芽ぶかぬながらもこころもち潤みを持った檪の高枝で頬白が囀りはじめる三月の雲の白さは素晴らしい。(後略)」と書いている。昭和28年の作だから、龍太の初期作品の瑞々しさが漂っている。郷里の甲斐(山梨)の景色を、三月という物が生まれ次ぐ季節感配し、スケール大きく捉えていて気分が良い。龍太は「夏の雲湧き人形の唇ひと粒」「冬の雲生後三日の仔牛立つ」などの雲を詠んだ句が多い。この句は、句集「百戸の谿」より引いた、飯田龍太の句。
三月の雨三月の樹に光り 万里子
三月は陰暦の如月(きさらぎ)。如月は草木の芽が張り出す月であるところから、草木張月(くさきはりつき)の義という説があるくらい、木々に生命感が溢れる。またその頃の雨は『黒冊子』(くろぞうし)では、春雨と春の雨を区別して、「春雨はをやみなく、いつまでもふりつづくようにする。三月を言ふ。正月、二月はじめを春の雨と也」と言っている。万里子は、そうした春雨の柔らかい雨糸が、樹を濡らし光っている様を詠んだものであろう。この句は「青玄合同句集11」から引いた、青玄無鑑査同人の小池万里子の句。
三月の窓に鳥来る授乳室 亀
先日、友人の科学者であり、登山家でもある、亀(ひさし)が句集を上梓した。彼とは、坪内稔典のNHK俳句講座で一時期、一緒に学んでいたことがある。掲句はその折に、目にして話題になって句である。三月は鳥の季節。雁、鴨、白鳥、鶴などは、北方の繁殖地に帰り一方鳴禽類は一斉に喜びの囀りを交わす。鳥の恋が季語ある通り、巣作りをしたり繁殖行動が見られる。この句には、三月の窓と授乳室を取り合わせることにより、生まれる歓喜と生まれ出ずる者への賛歌がある。この句は、船団会員の宮崎亀の句集「未来書房」(青磁社)2500円より、引いた。