雪をテーマにした俳句(厳選三句)

sanku

雪たのしわれにたてがみあればなほ 信子

「信子のなにわよもやま」(ブレーンセンター発行)を買った。この本は、「なにわ塾」の懇談会を取り纏めたもので、木割大雄との対談形式で書かれている。たとえば、日野草城を囲んでの句会。「集まるのは五、六人で、草城がその場で書いた短冊を、楠本健吉がちゃっかり、いつも持って帰るので悔しい思いをした」等、信子と俳句の関わりのヱピソードがいっぱいで、とても面白い。さて掲句だが、自分にたてがみがあればと、雪の降る喜びを少女のような気持ちで読んでいる。牝馬になって雪野原を駆け回る喜びを、雪以外をひらがな表記して、表現している。この句はその本の自選五十句の中の桂信子の句。

赤ちゃんが空を渡るよ深雪晴れ 稔典

大阪に住んで五十年余りになるが、どか雪の経験がない。ある年、「雲上の温泉」のキャッチフレーズに魅せられて、高峰温泉(長野県小諸市)に行った。まさに標高2092メートルの雲上だった。何よりも感動したのは、一面の雪景色。日光に照り輝くその雪の白さは、赤ちゃんの無垢の色、そのものだった。この句は、雪景色そのものに止まらず、更に踏み込んで赤ん坊が深雪晴れの空を渡って行くと、幻想的な風景を描き出している。この句が大好きなのは、あの雲上の風景と重ね合わさっているからかもしれない。この句は、句集「月光の音」から引いた、坪内稔典の句。

初雪や位置を正して切手貼る 武巳

雪が降って来ると、いつも頭の中で童謡の「雪」を歌っている。この歌は明治44年に「尋常小学校歌」と採用されたもので作詞者不明。歌い出しの「雪やこんこ 雪やこんこ・・・」のフレーズだが、「雪やこんこ」というのは、最近まで雪が降る様だと思い込んでいた。ところが、「雪やこんこ」は「雪や来う来う」だと解かった。即ち、雪が降れ降れという気持ちなのだ。この句は、雪を厳粛なものとして捉えたのだろうか?それとも、身分の高い人へ手紙を出すのだろうか?切手を貼る行為を位置を正すと、大げさに表現したところが、ユーモラス。この句は「船団」53号から引いた北原武巳の句。

 

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